「電話はいいです。こんな遅くに、山本社長はもう寝ているでしょうから……」横山紫は困ったように手を広げた。「こうしましょう。私に渡したくないなら、山本社長に直接取りに来てもらいます。私はもう関わりません」
「それはダメです……」池村琴子は唇を上げ、甘く微笑んだ。「電話したくないなら、私がかけましょう。他に問題がなければ、この箱の中身は全部あなたにあげられます」
横山紫は顔を青ざめさせ、口ごもりながら言った。「これは……申し訳ありません。もういいです、要りません」
池村琴子は心の中で冷笑した。
ちょっと試しただけで、横山紫の本性が露呈した。
山本正博の性格からすれば、この箱は返してほしくないと言ったからには、おそらく返してほしくないはずだ。
横山紫はもともと組織の人間で、ジュエリーのことを調べていたのも不思議ではない。