第176章 気にしない

車の中で、横山紫は窓の外を見ながら、心配そうに尋ねました。「山本社長、もし池村さんが後悔して試合に出たいと言ったら、私は辞退してもいいです。あなたたちの関係を壊したくありません」

「私と彼女には何の関係もない」山本正博は冷たく言い放ちました。「彼女が自分で辞退したんだ。それを尊重しよう。運転を始めてくれ」

車内の雰囲気は少し気まずくなり、アシスタントはアクセルを踏み、車はゆっくりと動き出しました。

山本正博は唇を固く結び、何を考えているのか分かりませんでした。

車内は薄暗く、横山紫は窓の外を横目で見ながら、口角がわずかに上がりました。

……

光町市、桜団地にて。

池村琴子がエレベーターを出ると、玄関前にしゃがみ込んでいる人が目に入りました。

池村琴子を見た南條夜は急いで顔を上げ、喜色満面で立ち上がりました。「来てくれたんだ、待っていたところで……」

池村琴子の後ろにいる人を見た瞬間、南條夜の声は途切れました。

「池村さん、ここでよろしいでしょうか?」引っ越し業者の人がスーツケースと荷物袋を持ち、南條夜の後ろのドアを指さして尋ねました。

池村琴子は頷きました。

南條夜は慌てて言いました。「まだ運び込まないでください」

引っ越し業者に向かって言いました。「申し訳ありません、5分ほど待っていただけますか」

そう言って池村琴子の側に寄り、懇願するような表情で「5分だけ時間をもらえませんか?お願いしたいことがあるんです」

池村琴子は数秒黙り込み、彼が落ち着かない様子で立っているのを見て、最後に頷きました。「中で話しましょう」

二人は部屋に入りましたが、誤解を避けるためドアは開けたままでした。

南條夜はリビングを行ったり来たりしながら、焦りながら言いました。「あのコンテスト、自分から辞退したんですか?」

池村琴子は首を振りました。「辞退していません」

「じゃあ、あなたは……」何かに気付いたように、南條夜は悟ったように「山本正博が辞退させたんですか?」

みんなから見れば、横山紫の勝算は池村琴子よりもずっと高かったのは確かでした。結局のところ、横山紫には経験があり、池村琴子は新人に過ぎませんでした。

山本正博かどうかは確信が持てませんでしたが、彼の態度から見ると……

池村琴子は苦笑いを浮かべました。