池村琴子は高橋姉帰がまた悪さをしていると思うと、目に冷たい光が宿った。
南條夜は彼女の「婚約者」であるだけでなく、友人でもある。
彼女は決して友人を自分の目の前で危険な目に遭わせるわけにはいかない!
「高橋さん、見つかりました!」警備員が緊張した様子で報告した。「一階の死角にある部屋は応接室だけです。」
応接室……
池村琴子の冷静な顔は、寒山の雪蓮のように、冷たい光を放っていた。
「高橋姉帰、変なことをしないでほしいわね……」
もし南條夜が鈴木家で何か起こったら、明日には鈴木家と南條夜が一緒にニュースの見出しを飾ることになるだろう。
彼女は世間の評価など気にしないが、鈴木家の人々のことは気にせざるを得ない。
彼女は大股で一階の応接室へと向かった。
応接室のドアはぴったりと閉まっていた。池村琴子は目を細め、ドアノブに手をかけ、開けようとした時、一本の手が彼女を遮った。
「高橋さん……」男性の低く磁性のある声が耳元で響き、まるで耳殻を撫でる柔らかな羽毛のようだった。
木村勝一の深い瞳が彼女に注がれた。「入らない方がいい。」
池村琴子の手が一瞬止まり、唇の端に軽やかな笑みを浮かべた。「木村さんのご配慮ありがとう。でも中にいるのは私の婚約者よ。」
つまり、婚約者の安否を心配しているということだ。
木村勝一の瞳の色が一層深くなった。
池村琴子が手を回すと、意外にもドアが開いた。
彼女は躊躇することなく中に入った。
部屋の中は散らかり放題で、南條夜は上半身裸でソファに横たわり、意識を失っているようだった。ズボンのベルトも緩んでおり、池村琴子は顔を赤らめ、思わず一歩後ずさりした。
そのとき、南條夜が目を開け、彼女だと分かると、顔を真っ赤にして下唇を噛み、もごもごと言った。「琴子……」
池村琴子は部屋を見回した。部屋は広く、家具以外には高橋姉帰の姿は見当たらなかった。
「大丈夫?」
南條夜の顔が真っ赤になっているのを見て、池村琴子は彼を傷つけないよう、それ以上質問を控えた。
「大丈夫。」南條夜は嗄れた声で、真っ赤な目で彼女を見つめながら言った。「ただ体の具合が悪くて……」
体の具合が悪い……
池村琴子は考えた。こういうものを飲まされたら、体調が悪くなるのも当然だ。