第212章 親族なのだから

高橋姉帰は心臓が喉元まで上がり、慌てて原蓮に目配せをした。

原蓮はそれを無視し、高橋進を見つめ、輝く瞳には懇願の色が満ちていた。

今回は何としても姉帰を連れ帰らなければならない。あの屋敷なんかに行かせるわけにはいかない。そうなれば親族との面会どころか、会うことさえ難しくなってしまう。

そんな眼差しを見た高橋進は、心の中で不快感を覚えた。まるで大切なものを奪われるかのように。

そして彼女の「養父」という言葉は極めて皮肉に聞こえた。世界中の誰もが彼が姉帰の養父だと知っているとはいえ、まだ誰も面と向かってそれを問いただす者はいなかった。

「私は姉帰の父親ですが、あなたは...」

原蓮が答えようとした瞬間、高橋姉帰が急いで割り込んだ。「叔母です!」

原蓮は目を見開いた。高橋姉帰がそんな風に自分のことを言うなんて信じられなかった。叔母なんかじゃない、れっきとした実の母親なのに!

「違います...私は彼女の...んんっ...」

千載一遇の瞬間、荒い大きな手が彼女の口を塞いだ。

中村薛鋼は片手で彼女の口を押さえながら、笑いを取り繕って言った。「申し訳ありません。家内は精神的に少し具合が悪くて。姪が怪我をしたと聞いて連れ帰りたがっているんですが、うちの暮らし向きじゃとても無理です。申し訳ありません、今すぐ連れて帰ります。」

彼は原蓮の口を押さえたまま、ほとんど引きずるように立ち去った。

高橋姉帰の凍り付いていた体がようやく温かさを取り戻し、しびれていた顔にも少しずつ感覚が戻ってきた。

あと少し、あと少しで全てがバレるところだった!

まだ安堵のため息をつく間もなく、高橋進の低い声が響いた。

「待って。」

中村薛鋼の体が止まり、原蓮はその隙に彼から逃れ、彼を睨みつけた。

高橋進は穏やかな笑みを浮かべ、優しい口調で言った。「姉帰の親族なら私たちの親族でもあります。せっかく来てくださったのですから、一緒に食事でもしていかれませんか。」

中村薛鋼は黙り込み、高橋姉帰は恐怖で血の気が引いた。

食事?!

原蓮のような知能と感情の制御力では、高橋家の人々と食事をすれば、全てがバレてしまう!

この食事は絶対に避けなければ!

高橋姉帰は手すりをきつく握り、爪が革張りの手すりに深く食い込んだ。