「いいえ」高木阿波子は軽く笑い、頬に可愛い笑窪を作った。「ただ、お父さんの態度の変化に驚いただけです」
変化は尋常ではなかった。
高木財源は拳を口元に当てて咳払いをし、深いため息をついた。「やはり私の娘は目が利く。今回は高橋仙に賭けて正解だった」
「君の交友関係に干渉するべきではなかった。でも...彼女とあの組織の関係を、前から知っていたのか?」
そうでなければ、なぜそんなに確信を持って高橋仙の味方をしたのか。高木阿波子が何も知らなかったとは、高木財源には到底信じられなかった。
高木阿波子は唇の端をかすかに歪めた。
警察署にいた時から、彼女は高橋仙の身分が並々ならぬものだと察していた。商談会の日にも父親に話したが、全く聞く耳を持たなかった。それなのに今になって、話さなかったことを責めるなんて。
「責めているわけじゃない」高木財源は一旦言葉を切り、目を細めて笑った。「彼女とは仲が良いのか?」
「あまり良くないです」
彼女は覚えている。以前、高木財源は高橋仙を誘拐したことがある。こんな父親を持っていては、たとえ彼女が友達になりたくても、相手が望まないだろう。
彼女の憂鬱そうな様子を見て、高木財源は表情を硬くした。
「仲が良くないのに、そこまで彼女を助けるのか?それに、商談会のチケットまでくれて...」
「彼女は'W'組織と密接な関係があるんですから、一枚のチケットを手に入れるくらい簡単でしょう」高木阿波子は唇を噛んだ。「お父さん、はっきり言ってください。結局何が言いたいんですか?」
こんなに苦心して彼女と高橋仙の関係を聞くのは、本当に彼女のことを心配しているわけではないはずだ。
高木財源は「へへへ」と笑った。「別に何もないよ。時間があったら、彼女を家に招いて食事でもどうかな。明日にでも人を遣って、お母さんを迎えに行かせるよ」
「もし誘えなかったら?」
「君なら大丈夫だよ」高木財源は彼女の肩を叩いた。
商談会の日、池村琴子は五枚のチケットを手に入れた。自分用に一枚、兄に三枚、残りの一枚を高木阿波子に渡した。
阿波子が仲が良くないと言うのを、彼は全く信じていなかった。
母親を取引材料にされたことを聞いて、高木阿波子は眉をひそめて黙り込んだ。
高橋仙は彼女が尊敬し憧れる人物だ。たとえ普通の人であっても、取引の道具にはしたくない。