「"W"組織から追放されたんじゃないの?まだ入れるの?」木村勝一の瞳に深い意味が宿った。
横山紫の顔が赤くなり、恥ずかしそうに言い淀んだ。「確かに追放されましたけど、きっと陥れられたんです。それに、組織には私と仲の良い人もいて、入るのを手伝ってくれます」
「組織のリーダーと話し合えば、組織に戻れる可能性もあるかもしれません」
その可能性は低いものの、ゼロではなかった。
組織内には彼女と仲の良い人が少なくなく、その人たちが良い言葉を掛けてくれれば、池村琴子を失脚させることはできなくても、少なくとも自分と同じように苦しい思いをさせることはできるだろう。
木村勝一は淡々と彼女を一瞥し、彼女の顔が真っ赤になっているのを見て、深い瞳に波風一つ立てなかった。
「池村琴子は組織でどのくらいの地位なんだ?」
彼は調べていた。横山紫が最近敵に回した人物の中で、池村琴子しかいなかった。
池村琴子が"W"の一員だということはすでに広まっていた。そうでなければ、南條家の人々も彼女と南條夜の結婚を認めなかっただろう。
この件について、この"W"組織は常に波風を立てていた。
木村勝一は目を伏せ、ふと病院で池村琴子が近藤正明を「六郎」と呼んでいたことを思い出した。
この「六郎」は、明らかにコードネームだった。
近藤正明は彼女と同じ組織の人間だった。
彼の元妻の正体は、本当に捉えどころがない...
彼女が自分と結婚した理由に他意がなかったとは、とても信じられなかった。
池村琴子がこの組織でどんな地位にいるのか、自分で確かめるしかないようだ。
「明日の夜、一緒に行こう」木村勝一は唇を上げ、氷雪よりも冷たい弧を描いた。
その言葉を聞いて、横山紫の心臓が激しく鼓動した。彼女は密かに木村勝一を見つめ、唇を噛んで小声で尋ねた。「木村さん、池村琴子は南條夜と結婚しましたけど、新しい人生を始めませんか?」
今は"W"組織のメンバーではないけれど、目の前の男性への好意は増すばかりだった。こんな大きなリスクを冒すのも、彼に少しでも自分を見てもらいたかったから。
木村勝一は眉を上げ、彼女を軽く見つめた。
「今の私は木村勝一だ。山本社長ではない」
答えたようで、答えていないような返事だった。