第277章 愛と持ち上げ殺し

「自殺……」高木朝子は虚ろな目で、呟くように言った。「そんなはずない、彼が自殺するはずがない、私がまだ出られないのに、どうして自殺なんて…正博兄さん、嘘でしょう？彼はこんなに長い間逃げ回って、惨めに生きてきたのに、どうして自殺なんて…」

高木朝子は首を振り、山本正広の死を信じようとしなかった。

今の彼女にとって一番良くしてくれる人といえば、山本正広以外にはいなかった。正広は彼女を最も愛し、最も大切にしてくれた人だった。

彼は彼女が山本正博と結婚したがっているのを知ると、二人を引き合わせようと尽力し、さらには自ら遺言を偽造して、正博に彼女と結婚するよう仕向けたのだ。

「どうして自殺なんて？なぜ助けられなかったの？！」高木朝子は口を押さえ、目から涙が溢れ出した。

山本正広が死んだ。彼女の子供の父親が死んだ。この世界で彼女を最も愛していた男が死んだ。

「彼は自殺し、ただ一つの遺言を残した。お前の命を守れと」

山本正博の声は冷たく、しかし強い説得力を持っていた。

一言一句が、彼女の心を刃物で切り裂くようだった。

「バカ、本当にバカ、山本正広、あなたは本当にバカよ！」高木朝子の目は真っ赤で、もう涙も枯れ果てたようだった。

山本正広の罪は確かに小さくはなかったが、更生の意思さえあれば、死刑を免れる可能性は十分にあった。

しかし彼女は違う。彼女の手は多くの命で汚れていた。死罪は免れても、生きて刑に服さねばならない。

彼女は山本正博を見つめ、心臓が一瞬止まったかのようだった。

彼女にはわかっていた。山本正広の自殺は命を命で償おうとしたものだと。

彼は正博の罪悪感を利用して、彼女の命を救おうとしたのだ。

でも山本正博は本当に彼女を助けてくれるのだろうか？

高木朝子は指を握りしめた。まるで命の流れを掴みとめられないかのように。頭の中は山本正広との甘い思い出でいっぱいになった。

彼女の心は死んでいた。この瞬間、死さえも怖くなくなったような気がした。

おそらく、彼女も山本正広を愛していたのだ。ただ、気づくのが遅すぎた。