「鈴木社長、この電話は……」
「愛からの電話だ」鈴木正男は声を詰まらせながら言った。
この時点で鈴木愛が電話をかけてきたのは、きっと彼の気持ちを変えられるかどうか尋ねるためだろう。もし木村爺さんが手を出さなければ、冷静になった後で木村家との縁組みを断ることもできただろう。しかし木村爺さんが手を出し、しかもこれほど見事な手際で事を進めてしまった以上、もう断る理由は何もない。
鈴木愛からのこの電話は、受けることができないし、受ける勇気もない。
大の男として、二人の娘の父親として、こんなに情けない思いをしたことは今までなかった。
娘があの馬鹿者と結婚することを考えると、鈴木正男はもう我慢できず、大勢の前で声を上げて泣き出した。
鈴木正男が体面も気にせず号泣する様子を見て、その場にいた株主たちは黙って顔を背け、共感力の強い者の中には密かに目を赤くする者もいた。