南條夜のほうが、あの人よりずっと良かった。彼女にも、彼女の家族にも優しく、特に叔父を命がけで助けてくれたことを知ってからは、申し訳なさと感動で胸がいっぱいになった。
彼が叔父を助けてくれたのは、自分が悲しむのを恐れてのことだと分かっていた。
「お姉さん、今は頭の中がちょっと混乱していて」池村琴子は目を伏せ、まつ毛が蝶の羽のように震えた。
鈴木愛が自分のことを思って言ってくれているのは分かっていた。でも、もし山本正博がまだ生きていることを知ったら、彼女はまだ自分と南條夜を一緒にさせようとするだろうか?
彼女は目を細め、心の中に迷いが生じた。
「お姉さん、実は今まで言えなかったことがあるの」考えた末、池村琴子は話すことを決意した。「山本正博は、実はまだ生きているの」
鈴木愛は笑みを浮かべながら彼女を見つめた。「そうだと思っていたわ」
「山本正博が亡くなった時、あなたはあんなに悲しんでいたのに、あなたの性格からして、そんなに早く新しい恋愛に入るはずがない。実は家族みんな知っていたの。あなたと南條夜は本当の関係じゃないって。あなたの心の中にいるのはずっと山本正博だったのよ」
池村琴子は顔を下げ、白い頬が少し赤くなった。
「結婚というのは、他人がどんなに勧めても無駄なものよ。私の友達の何人かは毎日夫の愚痴を言うけど、振り返ると夫とイチャイチャしているわ。関係が悪い時は骨身に染みて、相手を殺したいくらい憎むけど、良い時は誰にも言わないの。感動的な細かいことは数え切れないほどあって、その人の良さは自分にしか分からない。あなたが彼のことを忘れられないのは、きっと彼には良いところがあるからよ」鈴木愛は微笑みながら彼女を見つめた。「で、これからどうするつもり?彼が生きているなら、復縁したい?」
池村琴子はためらいながら、ゆっくりと首を振った。
「彼から話はないの?」鈴木愛の目に驚きの色が浮かんだ。「女性から積極的になるのはよくないわ。彼が言い出さないなら、知らないふりをしておきなさい」
池村琴子は苦笑いを浮かべ、どう説明すればいいか分からなかった。
山本正博が言い出さないのではなく、もう言い出せないのだ。