高木財源は心の中で嫌な予感がした。
もし阿波子が他の企業と何か契約を結んでいたら、それはきっと高橋グループだろう。
しかし、すぐに予想は覆された。
阿波子は契約書を見せないと諦めない高木財源の様子を見て、契約書を手に取り、一ページ目の契約タイトルを指さして見せた。「私は'W'組織に入ったの。この人たちは組織のメンバーで、入社契約を結びに来たの」
「'W'組織?」高木財源は自分の耳を疑った。「お前が'W'組織に?」
彼はしばらく呆然とし、そしてスーツにサングラスをかけた男たちを見た。
契約書には白黒はっきりと、確かにこれが"W"組織の契約書であることが示されていた。
この組織を偽装する者など、誰もいないだろう。
「ハハハハ、'W'組織だと?私の娘が'W'組織に入ったんだ!よし、よしよし!」高木財源は大笑いした。「こんな歳まで生きてきて、まさか私にもこんな晴れがましい日が来るとは」
高木財源は得意げになった。
高橋進に'W'組織の娘がいようが何だろうが、あの企業の社長たちが犬のように高橋進や鈴木正男に取り入っているように、これからは自分にも取り入ってくるだろう。
特に会社のあの古株どもは、これからは自分の顔色を伺うことになるだろうな?
「いい、とてもいい!」高木財源は阿波子の肩を叩いた。「さすが私の娘だ。前から朝子とは違うと思っていたが、やはり目に狂いはなかった!」
「お前は姉より出来が良い。光町に戻ったら、会社の仕事を任せよう。その時は会社を...」
「結構です」阿波子は眉をひそめ、横に一歩移動して高木財源から距離を置いた。「組織と契約を結んだら組織で働かなければなりません。あなたの会社には戻れません」
高木財源が彼女を利用して名声を得ようとしているのは明らかだった。
会社に戻らないと聞いて、高木財源は黙って笑った。
彼は阿波子の父親だ。阿波子が'W'組織のメンバーになったことが一度でも漏れれば、あの連中は否が応でも自分に敬意を払わざるを得なくなる。