この高木財源は、表では一つの顔を見せ、裏では別の顔を見せる奴だ!
木村爺さんは怒りで体が震えていた。
木村爺さんは知らなかった。高木財源は娘が虐められることを恐れているのではなく、虐められても見返りが得られないことを恐れていたのだ。
もし誰にも見られずに事が起これば、それは無駄になってしまうではないか?
「山本...木村さん、ドアを開けていただけませんか。うちの阿波子がまだ中にいて、さっきの助けを求める声は彼女のものでした。父親の気持ちをご理解いただければと思います」高木財源は情に訴え、理を尽くして説得した。
阿波子が助けを求めたということは、何かが起きたに違いない。今すぐ中に入って、他の人々に阿波子と木村誠治が同じベッドに横たわっているところを見せれば、阿波子と木村誠治の結婚話は決まりだ。
この件は阿波子が少し損をすることになるが、木村爺さんと合意に達している。この事が露見すれば、必ず木村誠治に阿波子を娶らせることになる。
「琴子が中に入っているから、問題ないはずだ。他の野次馬は解散してくれ」山本正博は高木財源の後ろに隠れているカメラマンたちを一瞥した。
記者たちは顔を見合わせ、手にしているカメラをどう隠せばいいのか分からなくなった。
高橋謙一は口元に笑みを浮かべ、不真面目な態度で立ち、遠慮なく退去を促す手振りをした。
これほど明白な仕草を見せられては、このまま居座るのは空気が読めないということになる。
「まだ帰らないのか?食事でもしていくつもりか?」
記者たちがまだ躊躇しているのを見て、高橋謙一は容赦なく追い払った。
ついに、一人の記者が動き出した。
一人が去り始めると、他の記者たちもこれ以上居座るわけにはいかなくなった。
記者たちが帰った後、企業家たちも野次馬を続けるわけにはいかず、次々と階下に降り、何も見なかったことにした。
見物人が減れば減るほど、高木財源の心は冷えていった。
証人がいなければ、彼が得られる「補償」も少なくなる。
「正博、お前はどうしても爺さんに逆らうつもりか?」木村爺さんの声には怒りが滲んでいた。
この孫は何度も自分の邪魔をする。しかもいつも高橋仙に関係している。
誠治と鈴木愛を結ばせることは諦めたのに、他の人と結ばせることもできないというのか?