「彼に当時のことを知られるのが怖いの?」近籐正明は躊躇いながら言った。「気にしすぎないで。このことを知っている人はほとんどいないし、それに彼だってあなたに悪いことをしたじゃない。あの時のあなたの行動は、むしろ思いやりがあったと思う」
思いやり?名誉と利益のために彼と結婚したことが思いやりと言えるのだろうか?
近籐正明が自分を慰めているだけだと分かっていた池村琴子は、目を伏せ、胸が重く沈んでいた。
「そういえば、この前のデザインコンテストはずっとあなたの夢だったよね?主催者が日本に戻ってきたらしいし、どうせ'W'組織のメンバーだってバレたんだから、うちの組織の代表として出場してみたら?」
このコンテスト、近籐正明が言い出さなければ、すっかり忘れていたところだった。
たった数ヶ月のことなのに、まるで長い時間が経ったかのように感じる。