第311章 誤解

芸能界で長年活躍してきた彼女の顔を立てて、誰もが彼女をあやかし、持ち上げてきたのに、この山口念ときたら、彼女の顔をつぶすどころか、人前で彼女に逆らうなんて。

この山口念は、本当に芸能界で生きていく気がないようだ。

池村琴子の探るような目に出会い、松田柔子は胸の中に溜まった怒りを発散できずにいた。

そのとき、山本正博が近づいてきた。

山本正博を見た山口念は目を輝かせた。「ちょうどいいところに。あなたの子供の母親が、この女にひどい目に遭わされそうになったのよ。」

山本正博は池村琴子を一瞥し、静かに尋ねた。「どういうことだ?」

「松田柔子が私に鍵を渡して、高橋さんをこの部屋に連れて行けば、私をトップスターにしてあげるって言ったの。誘惑は大きかったけど、私はそんな人間じゃないわ。」芸能界のどんな手口も見てきた彼女は、松田柔子のやり方をすぐに見抜いた。

松田柔子は高橋仙を地獄に突き落とそうとしていたのだ。

山口念が山本正博の前で自分の正体を暴露したのを見て、松田柔子の顔は青ざめたり赤くなったりした。

山口念は自分を陰険な人間だと決めつけたのだ。

山本正博の表情が次第に冷たくなっていくのを見て、松田柔子は慌てた。

「本当にそうなのか?」山本正博は彼女を見つめた。

「もちろん違います!」松田柔子は怒りで体を震わせ、頬を紅潮させながら言った。「高橋さん、私はそんなことはしません。山口念が私を中傷しているんです。」

「中傷?」山口念は嘲笑した。「部外者はあなたのやり方を知らないかもしれないけど、私はよく知っています。あなたの事務所のタレントを金主のベッドに送り込んだことだってたくさんあるでしょう?仕事上だけでなく、私生活でもそんなことをするなんて思いもしませんでした。」

高橋仙は恋敵だけど、彼女を破滅させても自分には何の得もない。むしろ南條夜に恨まれて、友達にすらなれなくなるかもしれない。

松田柔子の提案は魅力的だったし、普通の人なら乗っていただろう。でも彼女はトップスターには興味がなかった。

「今私が何を言っても信じてもらえないでしょう。」松田柔子は深く息を吸い込んだ。「百聞は一見にしかず。」

彼女はドアの前に歩み寄り、取っ手を握って回し、力強く押した。

ドアが開き、中の様子が全て明らかになった。