木村爺さんだけでなく、普通の人でも彼女は山本正博を死ぬほど愛しているはずだと思っていた。
二人は隠れて結婚し、山本正博のすべてのスキャンダルを許容していた。もしお金のためなら理解できるが、彼女は無一文で出ていくことを選んだ。愛のためでなければ、何のためだろうか?
木村爺さんの顔に浮かぶ得意げな表情を見て、池村琴子は唇の端を上げたが、その笑みは目には届かなかった。
「愛のためではなく、恩返しのためです」澄んだ声が一瞬止まり、「彼は私の大学生活全体を支援してくれました」
山本正博の支援がなくても大学は卒業できたはずだが、当時の彼女は貧しい大学生という身分で、組織の身分も簡単には明かせなかった。
山本正博への恩返しは、師匠への恩返しでもあった。
師匠がいなければ、「W」組織は存在しなかったはずだ。