池村琴子は松田柔子が自分を怒らせようとしているのを知っていたが、落ち着いて山本正博を一瞥しただけだった。
山本正博の唇に、かすかな冷笑が浮かんだ。「可乃子さんは、よく情報をお持ちのようですね」
氷のように冷たい声音で、その皮肉な調子に背筋が凍る思いだった。
公然と反論され、松田柔子はその場に立ち尽くし、頬を真っ赤に染め、手の置き場も分からなくなった。
山本正博は池村琴子に向き直り、深い瞳に後悔の色を浮かべた。「主催者に話してきます」
この件は彼の心の重荷だった。当時、横山紫の離間策と、池村琴子が大会を辞退するという電話を知って、怒りのあまり彼女の辞退を認めてしまったのだ。
きちんと調査せずに誤解を招いてしまったのは彼の責任だった。
池村琴子は首を振った。「必要ありません」