第323章 後ろ盾

池村琴子は松田柔子が自分を怒らせようとしているのを知っていたが、落ち着いて山本正博を一瞥しただけだった。

山本正博の唇に、かすかな冷笑が浮かんだ。「可乃子さんは、よく情報をお持ちのようですね」

氷のように冷たい声音で、その皮肉な調子に背筋が凍る思いだった。

公然と反論され、松田柔子はその場に立ち尽くし、頬を真っ赤に染め、手の置き場も分からなくなった。

山本正博は池村琴子に向き直り、深い瞳に後悔の色を浮かべた。「主催者に話してきます」

この件は彼の心の重荷だった。当時、横山紫の離間策と、池村琴子が大会を辞退するという電話を知って、怒りのあまり彼女の辞退を認めてしまったのだ。

きちんと調査せずに誤解を招いてしまったのは彼の責任だった。

池村琴子は首を振った。「必要ありません」

山本グループの代表として大会に参加することはできないが、自分の組織の代表として参加できるのだから、これも災い転じて福となすというものだ。

池村琴子が全く気にしていない様子を見て、山本正博は胸が締め付けられる思いがした。

彼が彼女に与えた傷があまりにも大きく、一生をかけて償うしかないのだ。

二人が目配せし合う様子と、店内の人々の探るような視線に、松田柔子はもういられなくなった。

何度も面目を失い、ほとんど体面が丸つぶれだった。

「柔子さん、店内にはほかのアクセサリーもありますが、見てみませんか?」丸山社長は気まずい雰囲気を和らげようと急いで取り繕った。

「結構です」松田柔子は胸が痛むほど腹を立て、出口に向かって歩き出した。池村琴子の傍を通り過ぎる時、何かを思い出したように彼女に言った。「そうそう、高橋さん、お伝えしたいことがあります」

「山口念は所属事務所をクビになりました。彼女の名義の広告契約はすべて解除され、今は何のリソースもない素人です」

松田柔子はこの言葉を得意げに言い放った。

高橋仙には今は手を出せないが、山口念なら動かせる。芸能界は人脈とリソースが物を言うところ。これまでの年月を無駄にしていなかった。

もし山口念が本当にトップスターだったら、こんなに早く干すことはなかっただろう。でも彼女はちょっと売れ始めた程度の新人に過ぎない。そんな状態で自分に逆らうなんて、その結果は芸能界でのキャリアが芽のうちに摘まれることになる。