第364章 鈴木鈴の自信

「なんでもないわ」池村琴子は、結婚の真相を知られることを恐れ、思わず顔を背け、彼の鋭い視線を避けた。

山本正博は彼女をじっと見つめ、その眼差しは熱く、その意図を読み取ることは難しかった。

「君は南條夜に献血もできるし、近籐正明と何でもできる。なのに、僕とは一言も話したくないのか」山本正博は目を閉じ、長く息を吐いた。

彼の声は暗く低く、心臓は枷に縛られているかのように、少し呼吸をするだけでも痛みが走った。

かつて彼女を傷つけたことを知っている。彼女が自分に対して心の壁を作るのは当然だ。しかし、実際にこの状況に直面すると、全身が冷え切るような思いだった。

時として記憶力が良すぎることも苦痛だ。ビジネスの世界では威風堂々としているのに、好きな女性の前では、ただ卑屈に頭を下げることしかできない。

感情というものは、本当に贅沢で苦しいものだ。

山本正博の問いかけに、池村琴子の心は激しく震えた。彼女は俯いたまま、どう応えればいいのか分からなかった。

彼に告げるべきだろうか。私があなたと結婚したのは、遺産目当ての下心があったからだと。

師匠が組織を彼女に託した時、後継者に返すとは言わなかったが、もし将来、唐伯虎の古画を持つ者が何かを求めてきたら、必ず応じるようにと言っていた。

松田柔子がその絵を持って来たのは、彼女に地位を譲ってほしいということだった。

譲るべきだろうか。

師匠から託された時は「L」組織だったが、今やこの組織は「W」と呼ばれ、彼女と仲間たちの心血を注いで作り上げたものだった。

山本正博の深い瞳を見つめ、池村琴子は下唇を噛んで、小さな声で言った。「大会が終わったら、すべてお話しします」

組織を松田柔子に渡すくらいなら、山本正博に直接話した方がいい。

「W」組織は彼女の心血だ。このようにあいまいなまま手放したくはなかった。

彼女の困った様子を見て、山本正博の瞳の色は深まり、そっと視線を逸らした。

彼は彼女を追い詰めたくなかった。

少し疲れた様子で目を伏せ、低い声で言った。「試合に行きなさい」

彼女が話したくないなら、それでいい。

彼女が自分の側にいてくれて、幸せでいてくれるなら、小さな秘密があってもいい。

たとえ、自分が彼女の心を開いてくれる相手でなくても。

池村琴子は時計を確認した。あと3時間で試合が始まる。