第385章 あなたの愛を、受け取る勇気がない

池村琴子は一瞬固まり、指を握りしめ、唇を震わせた。真実は口の端にあったが、言い出せなかった。

組織のトップの座は魅力的すぎた。彼女は、話してしまえば山本正博との関係が崩壊してしまうのではないかと恐れていた。

「実は、あなたと結婚したのは、お父様との取引だけが理由ではなかったの」池村琴子は言葉を区切った。「あの時、あなたが私を援助してくれて、山本グループの助けは今でも忘れられないの……」

「覚えていなくていい」山本正博は冷たく彼女の言葉を遮った。「ただ知りたいのは、あの寛大な父が、好きでもない男と結婚させるために、お前にどんな条件を出したのかだ」

実際、彼が聞きたかったのは、木村利男に言われて結婚したのなら、他の男性だったとしても結婚していたのかということだった。

彼女にとって結婚とはそれほど軽いものなのか?

山本正博は考えれば考えるほど腹が立った。

池村琴子は下唇を噛み、目に涙が浮かんでいた。

山本正博は彼女をじっと見つめ、薄い唇を引き攣らせ、かすれた声で暗い感情を込めて言った。「もしお前が木村利男に送り込まれた人だと知っていたら、俺は結婚しなかった」

池村琴子は一瞬固まり、目が真っ赤になった。

その言葉を聞いて、彼女の胸は引き裂かれるような痛みを感じた。

「あなたが彼を憎んでいるのは分かります」池村琴子は声を詰まらせ、鼻が何度も痛くなった。

真実を話してしまった今、山本正博が彼女を憎んでも仕方がなかった。

山本正博と結婚した時、師匠は彼と山本正博の関係について話していた。

師匠は酔った勢いで吉田蘭と関係を持ってしまったが、その時、吉田蘭は既に山本家の長男と結婚していた。

師匠は吉田蘭に長年片思いをしていたが、誰かの策略なのか、当時木村家の長男だった彼は吉田蘭と関係を持ってしまった。

この件は表沙汰にはならなかったものの、山本正博の誕生は恥ずべき爆弾のように、時々吉田蘭を刺すことになった。

これが義母の吉田蘭が山本正博を好きになれなかった理由だった。

山本正博は吉田蘭が単純に偏愛しているだけだと思っていたが、実は隠された事情があり、彼は山本家の人間ではなく、木村姓だったのだ。

彼は私生児で、しかも両親が婚姻関係にある状態で不倫して生まれた私生児だった。