木村誠治は顎を噛みしめ、顔色が青ざめていた。
元々既成事実を作るつもりだったのに、山本正博の方で問題が起きるとは思わなかった。
車まで監視されていたことから、山本正博の影響力がどれほど広範かが分かる。
「十年?」山本正博は冷ややかに言った。「警部は丁寧に捜査して、犯罪者を早く法の裁きにかけてください」
その言葉を聞き、池村琴子と鈴木愛の恨みがましい様子を見て、警部は示談にする気がないことを悟った。
このようなプライバシーに関わる事件で、当事者が示談を望むなら融通を利かせることもできるが、被害者が望まない以上、公平に処理するしかない。
結局のところ、ここに立っている全員が、彼が敵に回すことのできない人物ばかりだった。
「木村誠治はここに残って、他の方々は調書を取り終えたら帰っていただいて結構です」警部は言い終わると、鈴木愛の前に歩み寄った。「愛さん、ご安心ください。これからの手続きは全て公正かつ適法に行い、二度と不当な扱いを受けることのないようにいたします」
鈴木愛は目を赤くして頷き、木村誠治を見ようともせず、歯を食いしばって言った。「示談するつもりはありません。このような変態を見逃さないでください」
「ご心配なく」
木村誠治の落ち着いた表情に怒りの色が浮かび、何か言おうとしたが、結局その場に立ったまま、木村爺さんにメッセージを送った。
このまま留まれば、刑務所行きは避けられない。
ここを離れてこそ、この件を揉み消す方法を考えられる。
池村琴子と鈴木愛たちは警察署を後にした。
警察署の前で、鈴木愛は照れくさそうに笑った。「今日は本当にありがとうございました。あなたたちがいなければ、この先どうなっていたか分かりません」
木村誠治のしたことを思い出すと、鈴木愛は今でも恐ろしくなった。
木村誠治は見た目もよく、家柄も良かったのに、まさかこんな変態だったとは。
「お先に失礼します。私一人で帰れますから」鈴木愛は山本正博と池村琴子が険悪な雰囲気にあることを知っており、二人に時間を与えたいと思った。
「いいえ、従姉さん、私が送ります」池村琴子は彼女の意図を察しながらも、即座に断った。
彼女と山本正博には話すことなど何もない。たとえあったとしても、とっくに話すべきだった。今更ではない。