南條夜の出現が病室の静けさを破った。
池村琴子は扉の外からのぞき込む高橋謙一を見て、すぐに理解した。
三兄が意図的に南條夜を来させたのだ。
池村琴子は南條夜に優しく微笑んで言った。「母から聞きました。私を病院に連れて来てくれたのはあなたなんですね。まだお礼を言えていませんでした」
「私たちの間柄で、そんな堅苦しいことは不要です」南條夜は山本正博に視線を向け、皮肉を込めて言った。「誰かさんのおかげで、私がヒーローを演じることができましたからね」
二度とも彼が池村琴子を病院に運び、二度とも原因を作ったのは山本正博だった。
山本正博の表情は霜のように冷たく、黒い瞳を細め、笑うでもなく笑わないでもない表情で、危険な雰囲気を漂わせていた。
南條夜の言葉は明らかに彼を皮肉っているのだった。