高橋姉帰は後悔し始め、心の奥底から池村琴子への不満が湧き上がってきた。
池村琴子を信じるべきではなかった。
「W」のいわゆる清掃員は、最初から彼女を侮辱するためのものだった。
「『W』は他の会社とは違う、何か隠された条件があるかもしれない」渡辺義広は目を光らせ、思案げに言った。「お姉さんは正社員になる時期について何か言っていなかった?」
池村琴子の話題が出て、高橋姉帰の顔が少し青ざめた。
彼女と池村琴子は敵同士のような関係で、正社員の話など出るはずもなかった。
渡辺義広の期待に満ちた眼差しに、高橋姉帰は胸が震え、言葉を濁した。「義広、帰りましょう。兄が法律事務所を任せると言っているの。そっちの方が確実だと思う」
「姉帰」渡辺義広は彼女の手を握り、優しく慰めた。「お姉さんは『W』の管理者だよ。『W』はどんなに悪くても、兄の法律事務所より上だろう。忘れたの?同窓会でそう言ったじゃないか。『W』に入れなかったら、同級生たちにどう思われる?」
高橋姉帰は一瞬固まり、顔色が青くなったり赤くなったりした。
そうだ、同窓会で大口を叩いてしまった。もし最後に「W」に入れなかったら、きっと皆に笑われる。
渡辺義広の断固とした様子を見て、彼女の心は迷いと葛藤に満ちていた。
この会社は想像していたものとまったく違い、特に消毒液の臭いのする作業着は、嫌悪感と吐き気を催させた。
人事の女性は彼女がまだ躊躇しているのを見て、顔を曇らせ、もう何も言わずに清掃道具を持って戻ろうとした。
「待って!」高橋姉帰は慌てて呼び止めた。「今から入社します」
渡辺義広の言う通りだ。「W」は元々謎めいていて、小さな会社かもしれないが、これは試用期間の勤務地に過ぎないのかもしれない。
池村琴子は兄との約束を交わした以上、彼女に何かするわけにはいかない。そうすれば高橋家の面子も潰れる。
渡辺義広は彼女が決心を固めたのを見て、やっと安堵の息をついた。
彼が高橋姉帰と付き合っているのは、彼女のバックグラウンド、高橋家と「W」組織に目をつけていたからだ。
外では高橋仙と仲が悪いと言われているが、仕事を紹介できるということは、高橋仙との関係が最悪というわけではないということだ。
彼は家族の企業を安定させるために、「W」と高橋家の助力が必要だった。