「木村家の後継者が『W』を引き継ぐことについてですか?」池村琴子は軽く笑い、言葉の端々に深い意味を込めた。
松田明男は彼女がこのことまで知っているとは思わなかったが、考えてみれば、おそらく木村勝一から聞いたのだろうと推測した。
「ここまで話が及んだからには、もう遠回しな言い方はやめましょう。私は『W』の社長が誰なのか知りませんが、すぐに降りることになるでしょう」松田明男は確信に満ちた口調で言った。「あなたが組織内で重要な立場にいることは知っていますが、どんなに重要でも創設者には敵いません。木村利男は私の親友で、『W』の未来を私に託し、後継者に引き継がせるよう頼んでいました」
「彼の遺言と手紙は、すべて私が持っています」
松田明男は落ち着き払って話し、まるで『W』の社長交代が簡単なことであるかのように振る舞った。
彼がこれほど自信を持っているのは、木村勝一がついに組織の引き継ぎを承諾したからだった。
この件の実施における最大の障害は木村勝一本人だった。
彼が同意さえすれば、この件はスムーズに進められる。
「松田柔子さんはお父様に話していないのですか?」池村琴子は目を丸くして、驚いたふりをして言った。「彼女がお話ししたと思っていました」
「何を?」松田明男は池村琴子が怖がりも緊張もしていない様子を見て、心の中で不吉な予感がした。
「山本正博はもう『W』の引き継ぎを諦めましたよ」
「何だって?」松田明男の表情が変わった。「嘘を言うな、彼は確かに承諾したはずだ...」
「以前は承諾しましたが、後で考え直したんです」池村琴子は人の不幸を喜ぶような笑みを浮かべて言った。「お嬢様がお父様にこのことを話していなかったんですね」
これを聞いて、松田明男の頬が震え、怒りで目が血走った。
松田柔子は木村家の若者が『W』の引き継ぎを承諾したことだけを彼に伝え、その若者が諦めたことは全く話していなかった。
横にいた横山紫は必死に自分の存在感を消そうとしていた。
彼女は松田明男のことを心配せずにはいられなかった。
松田明男のこの様子では、明らかに木村勝一が諦めたことも、池村琴子が『W』のボスであることも知らないようだった。
「柔子は確かにこのことを私に話していなかった」松田明男の表情は恐ろしいほど、顔を真っ赤にし、額に青筋を浮かべていた。