彼から見れば、これは些細なことで、池村琴子に話しても、彼女は六郎を助けてくれるはずだった。
しかし、近籐正明は手を振って、それ以上話すことを拒んだ。
四郎は、これが近籐正明の底線だと分かっていた。
今の彼は、面倒を避けたいというよりも、逃避しているのだった。
しかし四郎は部屋を出た後、こっそりと池村琴子にメッセージを送った。
その時、池村琴子は国際展示会でジュエリーを見ていた。
「池村さん、今回の展示会の主催者は上田先生です。先生はこれが最後の展示会になると仰っていて、今後の展示会は恐らくあなたが引き継ぐことになるでしょう」山崎雅子は池村琴子の傍らに立ち、少し頭を下げながら、丁重な声で言った。
池村琴子は展示会の規模を見て、心の中で感嘆した。
この展示会は国際規模なので、小さくはないはずで、回る資金も天文学的な数字になるだろう。
展示会の場所を確保するために、これらのジュエリー業界の大物たちは必死になって争ったに違いない。
「山崎さん、あなたは上田先生の下で長年働いてきたので、私よりもずっと詳しいはずです。今後もご指導よろしくお願いします」
「とんでもございません」山崎雅子は慌てて手を振った。「池村さん、あなたの実力は誰もが認めるところです。私はただの助手に過ぎません」
上田先生が実の娘のように育ててくれたとはいえ、彼女は決して越権行為をしようとは思わなかった。
自分のものではないものに、彼女は決して手を出そうとしなかった。
山崎雅子の動揺を感じ取った池村琴子は微笑んで、彼女にプレッシャーを与えるような話はもうせず、話題を高木朝子に変えた。
「山崎さん、高木朝子のあの件について...上田先生は...」
果たして関与していたのか...
池村琴子は言いかけて止めたが、二人とも心の中では分かっていた。
「池村さん、あなたの心の中にはすでに答えがあるのではないでしょうか」山崎雅子は意味深な笑みを浮かべた。「この世で最も有効なのはやはりお金です。もちろん、運も重要ですが」
「ちょうど、高木朝子は...運が悪かったのです」
運が悪かったというのは、メディアの高木朝子に対する評価でもあった。
もし良い弁護士に出会えていれば、逆転のチャンスもあったかもしれないが、刑務所で死んでしまっては、もうどんなチャンスもない。