「しかし、私たち木村家のものは返してもらわないといけませんね。例えば……」木村誠治は言葉を引き延ばした。「あの組織です。」
また組織を返せという話だ。
この家族は、まともな人間が一人もいない。
池村琴子は地面に落ちているゴールドカードを指差した。「それが師匠が残した組織です。すべてこのカードの中にあります。東京最大の財産委託会社に聞けばわかります。」
木村誠治は眉を上げ、彼女が「W」組織をこんなに簡単に手放すとは思っていなかったようだ。
しかし次の瞬間、池村琴子は続けた。「師匠が創立したのは『J』組織で、私が創立したのは『W』組織です。間違えないでくださいね。」
二つの組織?
木村誠治は瞳孔を縮ませ、明らかにこんな展開を予想していなかった。
木村誠治が何か言おうとした時、山本正博の鋭い視線で止められた。「木村誠治、木村家に返すべきものは返したんだ。それ以外の欲しがるべきでないものは、欲張るな。」
「正博、そういう言い方はないでしょう。父が『J』だけを創立したとしても、『J』を基に成長した他の組織も、私たちの家のものです。」木村誠治は不敵に笑った。「結局、父がいなければ、高橋さんの今日はなかったでしょう?」
池村琴子は黙って笑っていた。
木村誠治の言う意味は、『W』も渡せということだった。
やはり、木村家の人間はろくな人間がいない。
「私は渡しません。あなたに何ができるというのですか?」池村琴子は優しく微笑み、整った歯を見せた。「木村さん、もし不満があるなら、『W』が欲しいなら、どうぞ取りに来てください。私から自主的に渡すには、あなたはまだ格が足りません。」
さらりとした言葉だったが、計り知れない圧迫感を帯びていた。
木村誠治の顔から笑みが徐々に消えていった。
『W』を取る?何を頼りに取るというのか?
高橋仙が自主的に手放さない限り、本当に引き継ぐ方法がない。
木村誠治はようやく気付いた。目の前の女性は、簡単には騙せないということを。
「木村さんはこの数年、さぞ辛かったでしょうね?」突然、池村琴子の一言で木村誠治は身震いした。
すぐに、木村誠治は表情を取り繕った。「そうでもありません。馬鹿だった時期は、まるで夢のようで、むしろ楽しかったです。」