山本正博が堂々と真ん中に立ちはだかるのを見て、池村琴子は困惑気味だった。
「どうしてここに来たの?」
今日は用事があって来られないと言っていたのに、突然現れたのだ。
「仕事を後回しにした。君と一緒にいる方が大事だから」普段は自制心の強い男が、突然彼女の手をしっかりと握り、南條夜の方を向いて言った。「さっきからずっと山口念を見ていたな」
山本正博は背を向けている山口念を深い眼差しで見つめ、淡々と言った。「恋愛は無理強いできないが、見逃すのもよくない。私のように、ずっと想い続けた人を取り戻せる幸運な人ばかりじゃないからな」
何かを思い出したように、山本正博は目を伏せ、瞳が揺れた。
その時、手のひらに温もりが伝わってきた。
池村琴子だった。
彼女の優しい手が小さな拳を作り、ゆっくりと彼の手のひらに収まった。