高橋忠一と高橋敬一は高橋家の他の人々から遠くないところに立っていて、二人の会話を池村琴子も聞いていた。
本性は変えがたいもので、彼女から見れば、高橋敬一が高橋姉帰を助けても、逆効果になるだけだろう。
しかし高橋敬一は高橋姉帰に対して親族フィルターがかかっていた。
彼が本当に高橋姉帰に傷つけられた時にこそ、目が覚めるのかもしれない。
高橋敬一は高橋忠一との会話を終え、振り返って彼女を一目見て、何かを思い出したのか、躊躇いながら歩み寄ってきた。
彼は歯を食いしばり、コートのポケットから小箱を取り出し、機嫌を取るように彼女の前に差し出した。
「これは謝罪の品だ」高橋敬一は一旦言葉を切り、掠れた声で付け加えた。「君が欲しがらないのは分かっている。でもこれが私にできる最善の償いだ。いや、償いじゃない。ただの些細な物だ。気に入らなければ、見るだけで捨ててもいい...」