第564章 もし、もしがなければ

高橋敬一は顔色が青ざめ、足元もおぼつかない様子で言った。「そんなはずはない。波奈子は姉帰にあんなに優しくて、いつも味方してくれていたのに、姉帰には波奈子を害する理由なんてないはずだ」

「彼女に理由がないなら、琴子に理由があるというのか?」山本正博は冷ややかに笑った。「もし犯人が本当に高橋姉帰だったら、お前はどうするつもりだ?」

いや、姉帰のはずがない……

高橋敬一は考えたくなかったし、考える勇気もなかった。

自分と波奈子は姉帰にあんなに良くしてきたのに、姉帰がそんなことをするはずがない。

「高橋敬一、お前の妹がそんなに善人なら、三兄に毒手を下すはずがないだろう?忘れるな、彼女は三兄を殺しかけた人間だぞ」池村琴子の一言で、高橋敬一の心の中の希望は完全に崩れ去った。