外で、服部波奈子と高橋敬一が向かい合っていた。
数分が経過し、二人とも言葉を発しなかった。
一人は恐れ、もう一人は勇気がなかった。
自分の好きな女性を見つめながら、高橋敬一の心は苦さで満ちていた。
以前、勇気を出して服部波奈子に告白した時、彼女が留学するという知らせを受けた。
「私がノーベル物理学賞を取ったら、付き合いましょう」
この言葉は高橋敬一にとって、拒否と同じだった。
しかし服部波奈子にとって、それは高橋敬一が彼女を信用していないということだった。
ノーベル物理学賞がどうしたの?彼女は優秀じゃないというの?
当時はまだ社会の厳しさを知らなかった。物理学という分野に本当に入ってから、自分の優秀さは本当の優秀さではなく、ただの狭い世界でのトップだったことを知った。