オフィスに入るなり、夏川梅は本題に入った。「栞はどうしているの?こんなに長い間、私に会いに来なかったなんて。あなたのお祖父さんが今日ここにいると言ってくれなかったら、またあなたたちに会い損ねるところだったわ」
夏川梅の言葉は思いやりに満ちていたが、加藤恋は母のことを思い出し、寂しげな表情を浮かべた。「母は5年前に亡くなりました...」
母と娘がどのように支え合って生きてきたかを夏川梅に一気に話したが、加藤恋は自分が本当に成長したのだと感じた。過去を冷静に振り返ることができるようになっていたから。
「梅の叔母さん、悲しまないでください。母は最期に笑顔でした。父と結婚したことを後悔していませんでした。ただ、父のところへ先に行っただけなんです」加藤恋は夏川梅を見つめながら、手を彼女の背中に置いて慰めた。
「あなたもお母さんと同じように優しい子ね。私が彼女と出会った時、彼女はあなたよりも少し若かったわ。彼女の服は全部私が作ったの。そうそう、彼女があなたのお父さんと駆け落ちした時も、私が作ったウェディングドレスを持って行ったのよ。二人が結婚した時、私に手紙をくれて、心配しないでと。人生の愛を見つけられて幸せだって。その写真は今でも私の家にあるわ」
「はい、父と母はとても幸せでした。おじい様の追跡から逃げ続けていましたが、私の子供時代はとても幸せでした」
加藤恋の笑顔を見て、夏川梅はようやく安心した。
「でも、福田家に嫁いだのに何の動きもなかったのはどうして?」夏川梅は不思議そうだった。福田家は東京でも名の通った家柄なのに、当時全く噂を聞かなかったのはなぜだろう。
「福田家がこの縁組を望んでいなかったからです。今回RCに来たのも、ウェディングドレスを着られなかった心残りを埋めるためです」
夏川梅は加藤恋の言葉を聞いて、怒って机を叩いた。「なんて奴らだ!人をバカにしすぎよ。私もあなたと一緒に帰って、味方になってあげる。うちの子がこんな目に遭うなんて。あなたのお祖父さんったら、あの老いぼれ、何度も言ってきたのに、本当に...」
加藤恋は久しぶりに温かい思いやりを感じ、思わず目に涙が浮かんだ。