オフィスに入るなり、夏川梅は本題に入った。「栞はどうしているの?こんなに長い間、私に会いに来なかったなんて。あなたのお祖父さんが今日ここにいると言ってくれなかったら、またあなたたちに会い損ねるところだったわ」
夏川梅の言葉は思いやりに満ちていたが、加藤恋は母のことを思い出し、寂しげな表情を浮かべた。「母は5年前に亡くなりました...」
母と娘がどのように支え合って生きてきたかを夏川梅に一気に話したが、加藤恋は自分が本当に成長したのだと感じた。過去を冷静に振り返ることができるようになっていたから。
「梅の叔母さん、悲しまないでください。母は最期に笑顔でした。父と結婚したことを後悔していませんでした。ただ、父のところへ先に行っただけなんです」加藤恋は夏川梅を見つめながら、手を彼女の背中に置いて慰めた。