188 福田元の誘い

彼からの電話だと分かると、秋山心は嫌そうな顔をした。この男のことは少しも好印象を持っていなかった。もちろん、福田元の目的も分かっていた。要するに彼に近づいて、何か言えない目的を達成しようとしているのだ。

まず、自分は男であり、福田元には全く興味がないので、すぐに電話を切った。

しかし福田元は諦めきれず、何度も電話をかけてきたため、秋山心は仕方なく電話に出て、女性の声で答えた。「お兄さん、何かご用でしょうか?」

唐沢行は手元の資料を見ていたが、トイレの前を通りかかった時に聞き覚えのある声が聞こえ、そして突然めまいがして倒れそうになった。

彼の脳裏に、ある場面が繰り返し浮かんでいた。成人したばかりの自分と...誰かの姿が。

「心お姉ちゃん、このドレス本当に似合ってるよ」

「心お姉ちゃん、僕は離れたくない。同じ学校に行こうよ!」

「心お姉ちゃん...行かないで...行かないで...」

「唐沢社長!唐沢社長!大丈夫ですか?」通りかかった若い社員が、倒れている唐沢行を見つけ、すぐに人を呼んだ。

入り口の騒ぎを聞いて、秋山心が顔を出すと、唐沢行が倒れているのを見て、福田元が何を言っているかも気にせず、すぐに電話を切って駆け寄った。

唐沢行は180センチを超える身長で、秋山心は177センチしかなく、抱えるのは少し大変だったが、周りの人々は彼の力の強さに驚いた。一歩一歩しっかりと歩いていた。

「心...お姉ちゃん...」唐沢行の額には汗が浮かび、何か恐ろしい悪夢に陥っているようだった。

秋山心はその呼び方を聞いて一瞬体が固まったが、すぐに我に返り、会社の休憩室へと急いだ。

30分後、唐沢行はようやく目を覚ました。

「君たちが私を運んでくれたのか?」

「いいえ、秋山課長が...」最初にいた若い女性は涙を浮かべそうになっていた。唐沢部長はとても優秀で若くてかっこいい人なのに、疲れすぎて突然倒れてしまったのではないかと。

秋山課長...唐沢行は眉を少し上げた。彼が心お姉ちゃんなのだろうか?

...

オフィスで、秋山心はため息をつきながら言った。「それで、お兄さんは何か用事があったんですか?さっきは急用があって切ってしまって」