「ありがとう」部屋に入った秋山心は礼儀正しく微笑んで、すぐに席に着いた。
福田元はこのテーブルに大金をかけ、特別に最高級のウイスキーまで用意していた。お世辞を言うような口調で「心ちゃん、今日は良い日だから、私の顔を立てて、一緒に祝杯を上げようよ」と言った。
秋山心は優しく微笑んで、淡々と言った。「お酒は遠慮させていただきます。最近、歯が痛くて」
「歯が痛いなんて聞いてないよ。心ちゃん、お兄さんに遠慮してるんじゃないの?」福田元は、この機会に秋山心を酔わせて手を出そうと考えていたのに、彼女が最初から飲酒を拒否したことに、多少がっかりした。
「申し訳ありません、二兄。本当に体調が悪くて。次の機会に一緒に飲みましょう」秋山心は首を振って、彼の誘いを断った。
実は彼は福田元の意図を理解していたし、この男の目的も察することができた。しかし、彼は男性なので飲酒は全く怖くなかったし、自己防衛意識も強かったため、今夜は絶対に福田元と飲まないと決めていた。
この時、福田元の表情はすでにかなり不機嫌になっていた。秋山心に無理強いはできないと分かっていて、心の中では憤懣やるかたなかったが、秋山家の背景があるため、それを表に出すことはできず、自分を慰めるしかなかった。「まあいいよ、飲まないなら飲まなくても。ソフトドリンクでもいいじゃないか」
「ご理解ありがとうございます、二兄」秋山心は頷き、福田元に微笑みかけた。
その時、隣のテーブルに座っていた清潔感のある若い男性が、秋山心に視線を向けていた。この女性が席に着いた時から、彼は秋山心の容姿と雰囲気に魅了されていた。
彼にとって、この女性は本当に美しく、その上、普通の人には真似できない雰囲気を持っていた。凛とした気品と優しさを兼ね備えた存在だった。
しばらく観察して、この女性と向かいの男性がカップルではないことを確信すると、若い男性はすぐに決心した。このチャンスを逃してはいけないと。
考えたらすぐに行動に移し、若い男性は立ち上がって秋山心と福田元のテーブルに近づき、秋山心に話しかけた。「大変失礼ですが、お二人の邪魔をして申し訳ありません。ただ、私はこちらの女性に一目惚れしてしまいまして、もしよろしければ連絡先を教えていただけないでしょうか」