169 借題発揮

「お母さん!なんで私の携帯を聞いてたの?」福田隼人の声が電話の向こうでようやく響いた。福田嘉が何かを怒鳴っていたが、隼人はまったく聞く気がなかった。

「わかった、そこで安全な場所を見つけて待っていて。心配しないで、すぐ行くから」事情を理解した隼人は急に緊張し始め、電話を切ると、髪の水も拭かずに慌てて飛び出した。

加藤恋は携帯をその女性に返し、何度もお礼を言った。

彼女は遠くまで行く勇気がなく、街灯の下で隼人を待っていた。

福田隼人の車が近づいてきたとき、痩せた女性が汚れた体を両腕で抱きながら階段に座っているのが見えた。彼女は小さく縮こまって通り過ぎる車を観察し、期待する車でないと分かると、その車が見えなくなるまで見つめ、そして唇を尖らせながら、そこに座り続けていた。