267 途中で賭けられる

加藤恋が数歩歩いただけで温井詩花から電話がかかってきた。「心配しないで、今病院に向かっているところよ。解決したら戻るわ。投票は始まった?」

温井詩花とスケジュールについて話していると、何か様子がおかしいことに気づいた。彼女は足を止め、警戒して周りを見回した。

「私は県立第一病院の近くにいるの。誰かに付けられているみたい」加藤恋は前方を見つめながら冷静に言った。最近敵を作りすぎて、今自分を追ってきている人が誰なのかさえわからなかった。

来た男の後ろには数人のチンピラがバラバラと付いてきており、手には鉄パイプのようなものを持っていた。彼らは加藤恋の前に立ちはだかり、まるで動かしがたい巨大な山のように、圧迫感を放っていた。

「このクソ女め、やっと見つけたぞ!」加藤恋がようやく目の前の人物の一人が達越の知り合いの支配人、鈴谷光一だと気づいた時だった。

「兄貴、この生意気な女が俺に手を出したんです。俺に手を出すってことは兄貴の顔に泥を塗るようなもんですよ。必ず仕返しさせてください!」

鈴谷光一は加藤恋を憎々しげに見つめ、今すぐにでも八つ裂きにしたいという様子だった。

兄貴と呼ばれた男は橋本荘司といい、加藤恋に対して何か見覚えがあるような気がしていた。ただ、この女の様子を見ていると、こんな華奢な女に本当にそんな力があるのかと疑わずにはいられなかった。

「お前、すごく強いんだろう?腕っ節に自信があるんだろう?今日、俺の兄貴が来たってことは、お前の死期が来たってことだ!」兄貴と言っても、橋本荘司は鈴谷光一より十数歳も若く、完全に家の権力を笠に着て、今日のような地位を得ているに過ぎなかった。

加藤恋は鈴谷光一がこんな男と知り合いだとは思わなかった。なかなかやるじゃないかと思ったが、この男のことは全く心配していなかった。むしろ冷笑を漏らした。この男のことは知っていた。それも良く知っていた。なにしろ橋本家は東京の暴力団の頂点なのだから!

相手は橋本家では大したことない存在だったが、こんな場所まで来て鈴谷光一を助けようとするなんて、本当に鈴谷光一に面子を立ててやったものだ。