245 福田家の面子

「その子の面倒を見ていてくれ。この野郎を先に外に連れ出す」竜川尚は慌てふためく葉野言葉を一瞥し、急いでその中年男を引きずり出した。

彼女が「聖母の賛歌」を歌っていた時の真摯で純粋な姿を思い出し、竜川尚はこんな馬鹿者がそんな純粋な少女を汚そうとしたことに我慢できなかった。

「ありがとう...」竜川尚が自分のために立ち回ってくれたことを悟ったのか、葉野言葉は小さな声で言った。感情は少し落ち着いたものの、まだ非常に怯えた様子で、露出した部分を必死に隠しながら、感謝の眼差しで加藤恋と温井詩花を見つめていた。

もう自分の人生はこれまでだと思っていたのに、このオーディションのおかげで二人の友達ができるなんて。

でも、どうして彼らが竜川尚と一緒にいるんだろう?

葉野言葉の心に疑問が浮かんだが、加藤恋の立場を考えると、有名人を何人か知っているのも不思議ではないかもしれない!

もしかしたら、彼らは知り合いを通じてコネを使っているのかもしれない。葉野言葉は加藤恋を一目見て、そんな考えを強制的に否定し、考えすぎだと思った。

竜川尚が出て行ってから、葉野言葉は加藤恋の方を向いて恐る恐る口を開いた。「あなたの件は解決したの?また話題になってるの見たけど」

「人のことを気にする余裕があるなら、まず自分の面倒を見なさいよ!」温井詩花は葉野言葉を見つめながら、なぜ自分の周りにこんな聖人みたいな人がいるのか理解できなかった。

加藤恋が何か言おうとした時、福田嘉からの電話で葉野言葉のことを気にかける余裕がなくなった。「家で問題が起きたわ。すぐに帰ってきなさい!」

その一言を聞いただけで福田嘉は電話を切った。加藤恋は当然、また自分の話題性の件が発覚して、今度は問い詰められるのだろうと考えた。

温井詩花と葉野言葉に簡単に事情を説明し、加藤恋は急いで家に戻った。

しかし想像していたような修羅場はなく、福田嘉は須田宏のために買ったばかりの車のタイヤがパンクして修理が必要だと言うだけだった。

加藤恋はこんなことで呼び出されるとは思わなかった。まさに精神異常者だ!