秋山花……その名前を聞いた加藤恋は思わず身震いした。長い年月が経っても、忘れることができないと思っていた。加藤恋にとって、母親をピアノ界から追い出し、もう二度と音楽を人と共有しようとしなくなった、あの女性を決して許すことはできなかった。
「さあ、入口に立ってないで、また何か用事があるかもしれないから」そう言って温井詩花は皆を録音スタジオへと連れて行った。
「葉野さん、もう抵抗しないで!私についてくれば、このデモの録音権をすぐにあげるよ」中年男性の下品な笑い声が皆の耳に入り、続いて揉み合う音が聞こえてきた。
練習中だった葉野言葉は一本の電話を受けた。相手は小さな商品の広告モデルを依頼したいと言い、すぐに契約できると言った。
彼女は今すぐお金が必要で、このオーディションに参加した理由もお金を稼ぐためだった。しかしオーディション終了後でないと報酬が貰えないと知り、突然のチャンスは葉野言葉にとって天からの贈り物のように思え、相手の要求通りに来てしまった。