それに、彼女は人生の大半を生きてきたのに、こんな豪華な別荘に住むことができなかった。今や、この別荘が孫の嫁の手にあるのだから、何としても奪い取って楽しまなければならない。大切な息子でさえこんな別荘に住めなかったのに、なぜ気に入らない娘が住んでいいのだろうか?
だから、どうしても別荘を引き渡させなければならない。最悪の場合、古い家も売って、福田家の穴埋めにできるだろう。
「おい、お婆さん、しっかりしなさいよ。ここは加藤恋の家なのよ。福田隼人と両親が住まわせてもらってるだけでも十分なのに、奪おうだなんて、人間のすることじゃないでしょう?」
温井詩花は、ようやく何が起きているのか理解した。そして、加藤恋がずっとどれほど苦労してきたかも分かった。友人として、今立ち上がらなければ、いつ立ち上がるというのだろう。
「うちの家のことに、よそ者が口を出す筋合いはないわ。お嬢さん、あなたが誰であろうと、今すぐ帰りなさい。うちの家のことに首を突っ込まないで。」
福田のお婆様は温井詩花を見つめ、冷たく軽蔑的な目つきを向けた。加藤恋のような人物が、高級な人々と付き合えるはずがない。だから、温井詩花など眼中にないのだ。
「それならば……」唐沢行の声が突然軽やかになった。「私は手持ちの株式をどうするか考えていたところですが、今、とても良い処理方法が見つかりましたね。」
福田元と福田鐵に視線を向けながら、唐沢行は、これから言うことで二人がその場で気絶しそうになることを予感していた。
「私の持っている福田家の株式を全て、加藤恋さんに譲渡したいと思います。」唐沢行の声が別荘の中庭に響き渡った。
福田鐵と福田元、そして福田のお婆様の心の中に大きな波が立った。頭の中が真っ白になり、特に福田元は我に返った後、体が震え、冷や汗を流しながら手足が冷たくなった。ぼんやりと、自分が唐沢行の罠に落ちたことに気付いた。
福田鐵は息子と唐沢行との因縁を知らなかったが、彼の言葉を聞いて激怒した。「あなたがセイソウリキグループの社長だからといって、でたらめを言うことはできません!株式を加藤恋に渡すなんて、彼女に何ができるというんです。無駄にしないだけでもましなほうでしょう!」