温井詩花は直接人を引き止め、冷笑いながら口を開いた。「他人の曲を盗作しておきながら、よくもそんな大口を叩けるわね。加藤恋を陥れるために事実を歪め、高橋綾子の怪我の責任を彼女になすりつけて。私に言わせれば、大会を辞退するだけでなく、安藤奈々のように皆に謝罪すべきよ。さもないと、この業界であなたの居場所はなくなるでしょうね」
野木早香は温井詩花を深く見つめた。以前、夏川晴海からこの女性の立場が並々ならぬものだと聞いていた。だから夏川晴海でさえ軽々しく彼女を敵に回すことができなかったのだ。まして自分なら尚更だった。
石田監督は明らかに彼女とこれ以上関わりたくないという様子で、直接切り出した。「野木選手は契約書の規定に違反したため失格となります。これから皆さんの進出シーンを追加撮影しますが、野木の盗作問題については公式声明を出す予定です。この件に関してはもう関与せず、大会の準備に専念してください」
石田監督にとって、野木早香が今さら謝罪しても時間の無駄だった。それに、公式声明を出せば新たな波紋を呼ぶことになる。炎上も話題性のうちだ。突如現れた動画の熱を冷まし、番組側の決意を示す必要があった。
ステージに戻ると、加藤恋は進出者が全て知った顔ぶれだったことに驚いた。司会者は既に態勢を整え、「それでは、ここまで勝ち進んできた最終進出者5名を拍手でお迎えしましょう!まず一人目は、総合ランキング1位の演技派、高橋綾子さんです」
この名前が発表されると、観客は驚きの声を上げた。元々1位は夏川晴海だと予想していたのに、たった一度の対決で順位が入れ替わってしまったのだ。
「皆様の支持と信頼に心から感謝いたします。最後の大会でも、引き続き応援よろしくお願いします~歌うことも楽しいので、これからも続けていきたいと思います~」
高橋綾子の怪我はほぼ完治していた。彼女はステージで最高の姿を観客に見せようと努め、ファンの声援一つ一つに熱心に応えた。実力の高さだけでなく、高橋綾子は彼女たちの中で最もファンの基盤が強い人物だった。
「2位は、いつも力強いステージで、唯一無二の存在感を見せてくれる方です!そして、芸名が正式に更新されました。温井詩花さんです!」