第277話 背後の人物

唐沢行はしばらく考えた後、やはり合理的な理由を見つけなければならないと思った。加藤恋は鍵を手に取り、そのまま別荘に入った。以前のものより少し大きかったが、彼女が今このような大きな家を買える余裕があるとは少し無理があるように思えた。むしろ...加藤恋は何かを思いついたようだった。別荘を出る時、鈴谷光一の鋭い視線が彼女を追っていることに気付かなかった。彼もまた別の思惑があったのだ。

翌日早朝、番組スタッフから明日の試合に関する詳細が伝えられるとの連絡があり、加藤恋は早朝から達越へと向かった。

加藤恋が階段を一歩一歩上がっていくと、6階で怒鳴り声が聞こえてきた。「このクソジジイ！銀行の金庫の鍵はどこにある？言っておくが、会社は今すぐ金が必要なんだ！」

加藤恋は足を止め、顔を覗かせた。

オフィスのドアが開いていて、誰かに見られることも気にせず、老人が車椅子に座っていた。周りには人々が集まっており、老人は明らかに病気の様子で、身体的にも精神的にも状態が悪そうだった。しかし、周りの若い世代は、家族の財産の所在を必死に問い詰めていた。

「おじいちゃん、聞いてるの？会社が破産寸前なのに、まだ何を頑固なことを言ってるの？」先頭に立つ男性は苛立ちを隠そうともせず、老人を激しく揺さぶった。

「ゴホッ、ゴホッ...」数回揺さぶられただけで、老人は目まいを起こし、口から血を流し始め、苦しそうに咳き込み、呼吸も更に弱くなった。

「このクソジジイ、本当に分かってないな！今この会社は、ちょっとした手を使えば私たちのものになるのに。いい加減にしろ！死んでからその銀行の金と株式を誰も動かせないと思ってるの？老いぼれの考えることね」別の女性が罵りながら言った。

加藤恋はその数人をじっと見つめていた。彼らは加藤恋の存在に全く気付いていなかった。

車椅子に座った老人は、呼吸が困難な様子だったが、孫たちに対して強い怒りを感じているようで、両手を握りしめ、手の血管が浮き出ていた。

加藤恋は、達越を支配しようとしているのが彼らの一族だとは思ってもみなかった。そうであれば、もはやこれらのことで悩む必要はない。彼らの弱点を見つけて早急に解決すればいい。

彼女が立ち去ろうとした時、嫌味な声が聞こえてきた。