辺りを見回しても、加藤恋は誰も見つけられなかったが、周りの人々が自然と後ろに下がり、ダンスフロアには二組だけが残されていることに気づかなかった。明らかに、その二組のダンスが特に目を引いていたのだ。
加藤恋は、先ほどのタキシード仮面も残っていることに気づいた。きっと彼はダンスが上手なのだろう。あの時承諾しなくて良かった。もし承諾していたら、今頃彼はあの場所に立っていないはずだ。
そのとき、温井詩花が酔った様子で加藤恋の傍にふらふらと現れた。強い酒の匂いを漂わせながら、「恋ちゃん、どうしてここに立ってるの?ずっと探してたのよ。私の携帯、あなたが持ってない?あれ?もう決まったの?」
「今夜のダンスクイーンを決める戦いは非常に白熱していますね。果たして勝者は誰になるのでしょうか!」司会者も興奮した様子で、まだダンスを続けている一組に目を凝らしていた。
その二組がまだ互いにダンスを続ける中、周りから歓声が上がった。
加藤恋はこの時になってやっと、ルパン三世のような格好をして仮面をつけた男性が、先ほど自分が間違えた人だと気づいた。
男性は優勝にはあまり興味がないようで、もう関わりたくないという様子だった。突然ステップを変え、立ち去ろうとしたその時、パートナーの女性が突然彼を抱きしめ、つま先立ちでキスしようとした。観客は皆、彼女のこの大胆な行動に驚かされた。まさかこの女性は、これだけの観客の前でフレンチキスをしようというのか。司会者もこれは予想外だった。
二人の目が合う中、男性は一歩後ずさり、女性の奇襲を避けた。見つめ合う中で、女性の瞳は星のように輝き、一方の男性は非常に困惑した表情で、その瞳は深い池のように暗かった。これは彼にとっても予想外の出来事だったようだ。
一計が失敗すると、女性は突然自分の仮面を外し、そして器用な指で男性の後頭部に伸び、軽く引っ張って男性の仮面の紐を解いた。
その瞬間、群衆から感嘆の声が上がり、二人がとても似合っているという声が聞こえた。
ステージの中央にいる男女を見て、加藤恋は呆然とした。どうして二人が一緒にいるのだろう?
加藤恋は、その男性が本当に福田隼人で、彼の前に立っている女性がギャンブルの王の娘、雲原静だとは思いもよらなかった。