スカートの裾が揺れ、加藤恋の髪も共に舞い上がった。それほど広くない玄関ホールで、場違いな音楽に合わせて、二人は不思議と調和のとれたダンスを踊り始めた。
それぞれの思いを胸に秘めた二人は、足を止めることなく踊り続けた。ホールの音楽が止むと、二人も動きを止めた。タキシード仮面は自分の仮面を外し、曖昧な笑みを浮かべながら言った。「恋、まだ私と行きたくないのかい?」
聞き覚えのある声に、加藤恋は驚いて思わず後ずさりした。
この男は木村信彦だった。なぜ彼がここにいるの?
だから仮面を被っていたのか。誰かに気付かれるのを恐れていたんだ。
「ここで何をしているの?」加藤恋は小声で尋ね、早く仮面を付けるよう促した。
「一杯飲みに行かないか?」木村信彦は加藤恋の置かれた状況など気にも留めない様子で、明るく笑いかけた。