スカートの裾が揺れ、加藤恋の髪も共に舞い上がった。それほど広くない玄関ホールで、場違いな音楽に合わせて、二人は不思議と調和のとれたダンスを踊り始めた。
それぞれの思いを胸に秘めた二人は、足を止めることなく踊り続けた。ホールの音楽が止むと、二人も動きを止めた。タキシード仮面は自分の仮面を外し、曖昧な笑みを浮かべながら言った。「恋、まだ私と行きたくないのかい?」
聞き覚えのある声に、加藤恋は驚いて思わず後ずさりした。
この男は木村信彦だった。なぜ彼がここにいるの?
だから仮面を被っていたのか。誰かに気付かれるのを恐れていたんだ。
「ここで何をしているの?」加藤恋は小声で尋ね、早く仮面を付けるよう促した。
「一杯飲みに行かないか?」木村信彦は加藤恋の置かれた状況など気にも留めない様子で、明るく笑いかけた。
「今?」
「もちろん」
加藤恋は不思議に思いながら首を振った。「友達がまだ出てきていないの。先に行って。誰かに見つかったら...」
「じゃあ、彼らに電話して早く来るように言うことを提案するよ」木村信彦は命令するような口調で言った。
加藤恋は首を振り続けた。このチンピラが何をしようとしているのか分からなかった。やっと平穏な生活を手に入れたのに、木村信彦と関わりたくなかった。
「女性に強要するのは好きじゃない。品がないからね」そう言いながらも、木村信彦の言葉には明らかな脅しが含まれていた。
加藤恋は心の中で思わず呟いた。この男に品なんてあったためしがない。初めて会った時は殺されかけたし、その後の出会いでも彼女の安全など全く気にかけていなかった。結局、この男は良い印象を一つも残していない。時々、この男の頭がおかしいんじゃないかとさえ思う。
彼がまだ自分を待っているのを見て、加藤恋は本当に理解できなかった。まさか彼らの関係がそこまで親密になっていて、誘われれば必ず出かけなければならないというところまで来ているとでも?
二人が玄関ホールに立っていると、大広間からの音楽は聞こえなくなり、人々が次々と出てきた。加藤恋は一目で福田隼人と雲原静が頭を寄せ合って何かを話し合っているのを見つけた。とても親密そうな様子だった。