369 見死に不救

「もう行かなきゃ……彼女には私が来たことを言わないで……全てが解決したら、自分から話すから」そう言うと福田隼人はすぐに背を向けて立ち去った。加藤恋が無事だと分かって、やっと安堵の表情を見せた。

葉野言葉は困惑した様子で、福田隼人の後ろ姿を目で追っていた。昨日まで彼は加藤恋の側で一睡もせず、水も食事も取らずに付き添っていたのに。大げさに言えば、葉野言葉には彼が昨日からずっと同じ姿勢で動かなかったように見えた。彼は加藤恋が無事であることを、目を覚ましてくれることを祈り続けていた。なのに、やっと目を覚ました今、何の説明もなく立ち去ってしまうなんて。

温井詩花は男の毅然とした後ろ姿を見つめながら、何かを考えているようだった。そして葉野言葉の頬を優しくつついた。「二人は夫婦なのよ。彼が言うことを素直に聞いておきなさい」

「はい、恋が悲しまないといいけど」

二人が病室に戻ると、加藤恋は再び目を覚ましていた。彼女は重たい頭を押さえながら、疲れ切った様子の二人の友人を見て、心が温かくなった。すぐに口を開いた。「詩花、ハッピーちゃん、もう休みに帰ってね。私はもう大丈夫だから。ほら、こんなに元気になったでしょう」

点滴くらい自分でも対応できるし、漢方薬で体調を整えることもできる。

「手続きの確認をしてくるわ。ハッピーちゃんは恋に付き添っていてね」温井詩花は頷いて、そう言い残して再び部屋を出て行った。

部屋に残された葉野言葉は葛藤していた。昨日のことを全部加藤恋に話したかった。火事現場に飛び込んで彼女を救い出したのは福田隼人で、一晩中付き添っていたことも。それに先ほどの福田隼人の様子も不自然だった。このことを加藤恋に話すなと言い、温井詩花も何か考え込んでいるような様子だった……きっと彼らは同じ世界の人なんだ……

そう考えると葉野言葉の目に寂しさが浮かんだ。いつも自分だけが浮いているような気がしていた。加藤恋と温井詩花はいつも何かを隠している。自分は何の役にも立てないことは分かっているけど、でも加藤恋の力になれるように、知る権利くらいは欲しかった。

夕方になってようやく加藤恋に少し体力が戻ってきた。温井詩花と葉野言葉が帰った後、看護師に車椅子を押してもらって、気分転換に病院内を散歩することにした。