369 見死に不救

「もう行かなきゃ……彼女には私が来たことを言わないで……全てが解決したら、自分から話すから」そう言うと福田隼人はすぐに背を向けて立ち去った。加藤恋が無事だと分かって、やっと安堵の表情を見せた。

葉野言葉は困惑した様子で、福田隼人の後ろ姿を目で追っていた。昨日まで彼は加藤恋の側で一睡もせず、水も食事も取らずに付き添っていたのに。大げさに言えば、葉野言葉には彼が昨日からずっと同じ姿勢で動かなかったように見えた。彼は加藤恋が無事であることを、目を覚ましてくれることを祈り続けていた。なのに、やっと目を覚ました今、何の説明もなく立ち去ってしまうなんて。

温井詩花は男の毅然とした後ろ姿を見つめながら、何かを考えているようだった。そして葉野言葉の頬を優しくつついた。「二人は夫婦なのよ。彼が言うことを素直に聞いておきなさい」