368 躊躇する

「くそっ!」木村信彦は自分を激しく罵った。本来なら加藤恋というあの狂女のことなど気にかけたくなかったのに、どういうわけか悪魔に取り憑かれたかのように戻ってしまい、彼女の居場所を確認するためにほぼすべての場所を探し回った。

しかし、消防隊が到着するまで加藤恋の姿を見つけることはできなかった。身分を明かさないために、福田隼人が彼女を連れ出す時に一緒に退散するしかなかった。

あの娘が福田隼人に救われたことを知ったら、きっと嬉しくて言葉も出ないだろうな!

そう考えると木村信彦は一瞬寂しげな表情を浮かべたが、すぐに普段の表情を取り戻し、何も言わずに車を走らせた。

一方、加藤恋は夢の中にいるような感覚で、どうしても目が覚めなかった。夢の中は灰色の煙に包まれ、彼女はその中を歩きながら、どこが終点なのかもわからず、何かを探しているようだったが、一向に応答は得られなかった。