367 彼女を探していた

加藤恋は氷水に浸した布を男性に渡し、彼の口と鼻を覆わせた。「早く出て行って」

男性が起き上がった時、彼は加藤恋を認識したようで、途切れ途切れに話し始めた。「あなたを...知っているような...あなたは...」

「今はそんな話をしている場合じゃないでしょう?早く行って!」

「あなたはどうするんですか?」

「私の友人がまだここにいるの。逃げ出せたかどうか分からないから、もう一度探してみます。見つからなかったら私も避難します」加藤恋の声はすでに掠れ気味だったが、それでも更に奥へと這って行った。

もしかしたら福田隼人はあのドアの所で立ち往生していて、まだ出られていないかもしれない。

濃い煙で加藤恋は目を開けることもできず、大量の一酸化炭素で目まいも始まっていた。激しく咳き込みながら、ワインに浸した布で口と鼻を覆った。もう出なければならない、このままでは持たない...福田隼人は、本当に逃げ出せたのだろうか?

加藤恋は意識が徐々に朦朧としてきて、自分の体をコントロールできなくなっているのを感じた。

彼女は死を恐れなかった。死ぬとしても福田隼人と共にここで死ぬのなら、孤独に生き延びるよりも、これこそが本望だと思った。

一つの人影が脇門から飛び込んできて、地面に這いながら叫んだ。「加藤恋!加藤恋、いるか?」

この時、加藤恋はもう何も聞こえず、元々輝いていた瞳もますます曇っていった。彼女は回光返照で福田隼人の声が聞こえたのだと思った。

加藤恋はもう力が全く残っておらず、大量の一酸化炭素を吸入して気を失ってしまい、自分が窒息寸前だということすら分からなかった。

「加藤恋を探しているのか?彼女はまだ中にいて、もっと奥の方へ行ったよ!」先ほど加藤恋に救われた男性が地面を這いながら前進し、ちょうど福田隼人と出くわした。

この男性と話している暇はなく、福田隼人は「ありがとう」と一言言っただけで真っ直ぐに中へ突っ込んでいった。

濃煙の中、福田隼人はついに加藤恋を見つけた。彼女の緑のドレスはもう元の色を失い、セットされていた髪も乱れて顔に張り付いていた。

今、彼女は青白い顔をして、瞳を静かに閉じていた。

「加藤恋!加藤恋!」福田隼人の心臓が一拍抜け、すぐさま駆け寄って、お姫様抱っこで彼女を抱き上げた。