加藤恋が立ち去ろうとするのを見て、齋藤武史は無理して起き上がった。「ちょっと待って!」
「今はそんな大きな動きをしない方がいいわ……」加藤恋が振り返って齋藤武史を見ると、彼はオフィスのソファークッションのジッパーを開けていた。
金属のジッパーの音が加藤恋の耳元を過ぎ去り、彼女は齋藤武史の向かいに立ったまま思わず眉をひそめた。なぜか奇妙な感覚に襲われ、その場から逃げ出したい気持ちと、何か真実が明かされそうな予感に戸惑いを感じていた。
齋藤武史は茶封筒を取り出し、ソファーの前のテーブルに向かって振った。
テーブルの上には数枚の写真が散らばった。
「これらを見てみる気はないかな」齋藤武史は淡々と言った。
加藤恋は疑問を投げかけた。「これらは何なの?」
「福田家に関するもので、あなたのお母さんとも関係がある」
加藤恋の体は思わず硬直し、向井栞の優しい顔が一瞬頭をよぎった。
「どういう意味?」加藤恋は慌てて写真を手に取ったが、写真に写っているのは坊主頭で尖った顎の男で、見覚えはなかった。
「この人は誰?」
「張本涼という人物だ。福田家の元執事の息子で、警備隊の隊長だった」齋藤武史は別の写真を指さした。「この写真の人物は、見覚えがあるだろう」
加藤恋にはその男の記憶があった。福田のお爺様が重体の時、この男が救急車に乗せ、お爺様が病院で亡くなるまでその男は姿を見せなかった。
そして彼女の母が病気で入院した時も、対応したのはこの男だった!
加藤恋は写真を見返し、驚きの表情を浮かべた。薄暗い路地で撮られた写真で、焦点がぼやけていたが、写っているのは間違いなく張本涼とあの医者だった!
加藤恋の心は何かに掴まれたように締め付けられ、齋藤武史を見つめて途方に暮れた様子だった。
「この二人は早くから接触があり、福田のお爺様の事件の後、張本涼は行方不明になった。そしてこの医者は……」
「この医者……私、会ったことがある」加藤恋の手は震えていた。
齋藤武史はその言葉を聞いて興奮し、突然立ち上がったため、傷口からまた血が滲み始めた。
この男のことを加藤恋は確かに覚えていた。最初に木村信彦に会った時、あの野郎が彼女を気絶させた時に、その男がとても見覚えがあると感じていた。今写真を見て、あの日会った人物だと確信できた。