577 石川直に身を任せる

石川直にとって、今の加藤恋は彼に頼みがあるのだ。結局のところ、福田隼人がその日クリスタル別館で何をしていたのかを知っているのは彼だけだから、加藤恋は絶対に彼を殺すことはできない。

加藤恋は美しい瞳で石川直を見つめ、その後橋本様に手を振って、「彼を連れて行きましょう」と言った。

石川直がこれほど傍若無人な態度をとれる主な理由の一つは、彼の背後にはあの深井須澄がいるからだ。井野忠にはまだ生還の可能性があり、深井須澄は利益を得るために簡単には彼を見捨てないだろう。

予想外にも加藤恋は彼を病院に連れて行った。半壊した足と霞んだ目で、石川直は福田嘉の前に立った。

「石川君、あなた...」福田嘉は信じられない様子で彼を見つめ、突然興奮した口調で言った。「福田隼人のために証言しに来てくれたの?あの日のことを全部見ていたのよね?殺人を犯したのは誰なの?うちの隼人は関係ないわよね?」

石川直は福田嘉の様子を見て、非常に軽蔑的に冷笑した。彼にとって、最も手に入れたいのは実は加藤恋の体だった。今や加藤恋は誰もが知る美人で、東京一の美女、極上中の極上だ。

もしあの日クリスタル別館に現れた人が彼女だったら、今頃は彼はこの完璧に近い女性を手に入れていただろう。

「何を言っているんですか?私には分かりません。あの日は私たちのお嬢様の車両整備をしていました。クリスタル別館なんて行ったことありません」石川直は厚かましくも言い放った。

彼の言葉を聞いて、福田嘉は信じられない表情を浮かべた。深井須澄と石川直は当時、加藤恋を呼び出して離婚のことについてよく話し合うと言っていたはずなのに、今になってどうして手のひらを返したように、クリスタル別館で何が起きたか知らないなどと言うのか?

きっとここには何か誤解があるに違いない。福田嘉は急いで前に出て言った。「石川君、これはどういうことなの!あの夜私たちで話し合ったことを全部忘れたの?あの時はそんなこと言ってなかったわよ。それにあの時はあなたが先に...私は気を失って...これは一体どういうことなの!」