542 治療を拒否

小瀧武の動きはゆっくりとしており、顔には惜しむ気持ちが隠せていなかった。それを見た深井須澄は非常に焦っていた。小瀧武が手にしているその神薬が一体何なのか理解できず、普段は寛容な彼がこんなにもケチになっている様子に驚いていた。

小瀧武がそれを取り出そうとしているのを見て、深井須澄は横に座って何の反応も示さない井野忠を急いで押した。井野忠はようやくゆっくりと立ち上がり、気の無い様子で小瀧武に感謝の言葉を述べた。

小瀧武が薬を取り出そうとした瞬間、先ほど玄関で応対していた若い男性の昭が慌てて駆け込んできた。小瀧武の動きを見た昭は急いで制止した。「師匠!何をしようとしているんですか?」

「昭、ちょうど良いところに来た。紹介しよう。この方は私の旧友の深井須澄だ。お前は私についてまだ日が浅いから知らないのも当然だ。そしてこちらは…」

「井野忠だ。德诚黄金の社長さ!南の金山一つが俺のものだ」井野忠は急いで自己紹介した。

昭はその名前を聞いて何かを思い出したかのように、急いで進言した。「師匠、この件はもう一度お考えください!以前から師匠が深沢家のために多くのことをしてきたという話は置いておいても、この井野忠は今日、絶対に敵に回してはいけない人を怒らせてしまったんです…」

小瀧武はこれほど複雑な事情があるとは思わず、急いで尋ねた。「誰を怒らせたんだ?」

昭は即座に答えた。「もちろん福田奥様です!」

その名前は小瀧武の予想を超えていたようで、驚いて尋ねた。「彼らが怒らせたのは…福田奥様だと?」

「はい!この件は既に東京中に広まっています。あの男が福田さんの目の前で福田若旦那夫妻に暴言を吐き、さらに奥様にセクハラまでしたんです。とにかくひどい態度で!加藤さんに寝るように要求したりして…」昭はその男の言動があまりにも人として許せないものだったため、それを繰り返すことさえ吐き気を催すほどだった。

小瀧武はこれらの話を聞いて激怒した。深井須澄の面子がなければ、とっくにこの混乱を追い出していただろう。まさか加藤恋に手を出すとは。加藤恋とはどういう人物か?

彼女は自分に医学の指導をしてくれた医学界の泰斗的存在だ。加藤恋と比べれば、一介の黄金装飾品の社長など何の価値もない。

それに、深井須澄が連れてこなければ、この時間に患者を診ることもなかったはずだ。