653 巧妙な布石

「もういいわ、喧嘩はやめなさい。みんな中に入ってるわ、ここで時間を無駄にしないで」加藤恋は彼らと話すのが面倒で、小瀧武と昭を一瞥してから身を翻して博覧会に入ろうとした。

福田桐子は負けじと口を開き、井野忠に向かって言った。「ねえ、あんな人たちと議論する価値なんてないわ。早く一緒に入りましょう！」

「高橋君、どうぞ——」井野忠も高橋山に向かって手で案内するジェスチャーをした。

高橋山は深く息を吸い込み、頷いた。

加藤恋のような小娘や小瀧武のような雑種犬は、彼のような地位と身分の人間にとってはただのゴミに過ぎない。彼は加藤恋の能力を目の当たりにしたことがあるにもかかわらず、彼女に何か特別なところがあるとは思っていなかった。

彼はまだ藤井のお爺さまがあの日の状況について尋ねてきたら、どう切り抜けるべきか心配していた。

加藤恋は今少し焦っていた。彼女は急いで宮本莉里を見つけ、今日のノバルティスの特効薬発表会の流れを確認しなければならなかった。

井野忠と高橋山のことはどうでもよかった。今最も重要なのは、早くノバルティスの薬を市場に出すことだった。

「あの井野という男は本当に自業自得だ。彼のような状態では、おそらく残りの人生をこのように過ごすことになるだろう」小瀧武は無力に頭を振った。

昭も口を開いた。「師匠、奥様、私たちも中に入りましょう！彼らに先を越されないように！」

「私はまず友人に会いに行かなければならないから、あなたたち二人は先に博覧会を見て回って」

加藤恋は会場に入ると、目はずっとノバルティスのブースを探していた。

今回の医学博覧会は確かに壮大で、4階建ての別荘を丸ごと借り切っていた。1階と2階は医薬品代理店や医薬品業者が並び、3階と4階が企業向けのフロアだった。

そして別荘内にはクリスタルの高架があり、その上にはクリスタルのショーケースが置かれていた。明らかに高橋家のいわゆる特効薬のために用意されたものだった。

加藤恋は高橋家のロゴと横断幕を見て、思わず首を振った。半月もの間、彼らがその問題に気づかなかったとは。このように見ると、高橋家のいわゆる能力は単なる誇張に過ぎなかった。