久我月は携帯を見ながら歩いていて、トイレの入り口に着いた時、足元に気を付けていなかったし、曲がり角から来た男性にも気付かなかった。
そのため、一気に衝突してしまった。
男性の胸板は逞しく広く、硬かったため、久我月は不意打ちを食らい、眉をひそめた。
「歩くとき……」
目を開けて歩けと言おうとしたが、顔を上げて見た瞬間、その言葉は喉に詰まった。
一橋貴明だった!
なぜここにいるの?
久我羽のヒステリックな声が再び聞こえてきた。まるで鬼の泣き声のように。ここに現れた一橋貴明を見て、久我月は何故か心が落ち着かなくなった。
「おじさんがトイレに来られたんですか?」久我月は美しいコーラル色の唇を少し開き、一橋貴明の深い瞳を見つめた。彼女はとても危険な雰囲気を感じた。
彼女は落ち着かない時、いつも耳元の髪を耳の後ろに掻き上げる癖があった。