第52章 スキャンダルのヒロイン

昨夜、久我月は安田奈々のあの馬鹿な手を折ってしまった。あんなに可愛い月瑠のことを、安田奈々が忘れるはずがない。

これで因縁を作ってしまったな。

もし久我月が池田グループに就職したら、安田奈々は野犬のように飛びかかってくるんじゃないか?

「それなら、池田延さんに私も層峰建設で働かせてもらおうかしら?」中村楽は目に悪戯っぽい光を宿し、安田奈々が久我月にボロボロにされる様子を想像していた。

「……」

久我月は眉をピクリと動かし、目を少し上げて困ったように言った。「あなた、警察署で法医になるんじゃなかった?」

「あ、忘れてた」

中村楽はズキズキする太陽穴を揉んだ。

彼女は大学で法医解剖を専攻していた。久我月が突然東京に戻ってきたのを見て、この子はきっと東京に長く滞在するつもりだと考えた。