「中村お嬢さん、やっと来てくれましたね!」
三十五歳前後の伊藤哲は中村楽の方へ早足で歩いてきた。彼は中村楽とは旧知の仲で、職業ではなく、習慣的に中村お嬢さんと呼んでいた。
「これが死者の資料です。秘書部の新人秘書で、入社間もなく亡くなりました」
伊藤哲は死者の曽我雪代の資料を彼女に渡した。「遺体は女子トイレで発見されました。確認しましたが、外傷は一切ありません」
とても奇妙な死に方だった。
彼はまた声をかけた。「斉田あきひろ、中村お嬢...中村法医を現場に案内してくれ」
斉田あきひろは人だかりの中から出てきた。彼は署から中村楽に配属された助手で、まだ研修医だったが、勤勉で向学心があり、中村楽も彼を連れて行くのを喜んでいた。
中村楽は頷き、斉田あきひろについて女子トイレへ向かおうとした。