彼女は我慢できずに小泉先生に疑問を投げかけた。「先生、鈴木家に気に入られようとして、良心に背いて小娘を褒めるのはよくないでしょう……」
「何もわかっていないね」
小泉先生は中村お母さんを冷ややかに見て言った。「小原舟先生は牡丹と長江図を得意としていたが、もう水墨画は描かず、書道に専念している」
「小原舟先生が筆を置いたからこそ、この長江図は特に貴重なのだ。鈴木お嬢さんの長江図には、小原舟先生の当時の風格があり、むしろそれ以上だ。その境地の深さは、小原舟先生の長江図にも見られないものだ」
「小原舟先生は水墨画を描くのをやめてから書道に専念し、雲書を創始した。そして梅花小楷も極めて見事だった!」
「鈴木お嬢さんが描いたこの長江図には、雲書と梅花小楷の両方が含まれており、価値は計り知れない!」
小原舟は年を取って引退したいと思っていただけで、さらに多くの長江図を描いたが満足できず、もう描きたくないと思っていた。
書道については、雲書を極めようとしたが、その骨格を表現できず、梅花小楷に専念することにした。それでも鈴木月瑠の面目を保つことはできた。
中村お母さんは再び軽蔑的に言った。「要するに、月瑠は模写しただけでしょう。何が価値があるというの。みんなが持ち上げているだけよ」
「わからないと言っているのに、強がるのはやめなさい」
小泉先生は思わず中村お母さんを白い目で見て言った。「小原舟先生は雲書を創始したが、たった一度しか書いていない。高画質の写真は残っているものの、誰もその真髄を模写することはできず、神韻を欠いている。鈴木お嬢さんのものは、神韻も骨格も素晴らしい。梅花小楷も、誰でも模写できると思っているのか?」
「これは鈴木月瑠さんが自ら書いたもので、独自の風格を持っている!芸術的価値は並外れているのだ!」
それぞれの人の字形と風格は異なるもので、鈴木月瑠の梅花小楷と小原舟の梅花小楷は、似ているように見えても、その神韻は異なっていた。
中村お母さんの表情は険しくなり、宴会にいられなくなって、人々が気付かないうちに立ち去った。
小泉先生は絵を大切そうに懐に入れた。
次々と祝いの品が贈られる中、ある人物の出現は鈴木月瑠の予想外だった。
遠藤信之。
遠藤家当主である遠藤信之の出現は、宴会に波紋を投げかけた。